百歳定年

     一千万あればですが、ドキュメント「人生フルーツ」のような家宅とたたずまいが私の理想になるでしょうか。移住については私も考えていました。ただ移住を絵にすれば随分あなたとは景色が違うようです。あなたのように辺野古のデモに参加するわけでなし、ひたすら自分のことだけ考えて私は生きています。
 妻を亡くした後手に入れた廃屋
で、まずやることは夕日の沈むのが見えるところに窓と浴室を作ることでしょうか。ガラスを入れず、板で葺いて横滑りだしにします。その窓から自分の人生が沈んでいくのを、ではなく夕日を見るのです。あなたが沖縄の海は碧いというので微笑しましたが、私も平凡ですね。自分が食べる分だけの米野菜を作る。人に迷惑を掛けないかわりに、貢献もしない、非生産的だと散々こきおろしてきた生き方を私がしているのです。群れることを嫌う一匹狼のこれが末路でしょうか。
 景色が違うと言いましたが、私のように自虐的なところがあなたにはない。沖縄にぐっと根を張り、生産的で、一市民として認知されているように見える。それを証明するのが本部(もとぶ)町営市場のこの写真です。写真を撮った方は名カメラマンです。一枚の中にざっと数えて十八、九名の人がいるでしょうか。米粒程から大きいのまで不揃いな體の大きさが遠近感を、無秩序な動きが市らしい雰囲気を醸しています。大柄なあなたが中央に立っていて、小柄な客と同じ目線になるよう體を低くしてドーナツの商品説明をしています。ドーナツ一つ売るのにここまでと思う程の真剣な眼差しもいい。そして最後になりましたが、インスタ映えこそしないが、美しいあなたの前垂れ。偶然とか、運だけではこれだけの写真にはならない。厚労省の広報に載せたいくらいの出来、名づけて「百歳定年」 
 断っておきますが妻は健在です。絵を描いてみただけです。病気のデパートをしていますから僻地には連れていけない。あなたの方、竜田の家はどう収まりをつけたのでしょうか。妻子を残してきているのなら、一等賞の写真送ってあげて下さい。農をなりわいとする者誰しもが羨む姿そこにありけり。みやづかえをしていた頃は同じ負け組にいて、子会社を転々としていたあなたのどこに厚労省のモデルに抜擢?されるような魅力がかくされていたのでしょう。
                       平成30年5月14日

f:id:kotiraamiko:20200318144235j:plain